言ってみればバリバリに"外科系"なのですが、なぜか変わったところでは精神科/神経科(これってちょー内科系です)の処置を担当することがあります。
◆ 電気けいれん療法ECTとは?
精神科の処置、それは m-ECT と呼ばれる「電気けいれん療法」です。専門的には『修正型電気痙攣療法』 modified electroconvulsive therapy と言うようです。おそらく看護学生時代に聞いたことがあるかもしれませんが、重度のうつ病の治療方法として、頭に電気を流すという治療方法があります。その拷問まがいな衝撃的な内容に学生時代には「なんて時代錯誤な治療法!」と過去の話と思っていました。でも実は現代にもバリバリに通用している治療方法なんですね。
なんでそんな精神科の電気痙攣療法を手術室看護師が担当するのかというと、実はいまは電気ショックを全身麻酔下で行なっているからなんです。
不眠症メディアグループ
こめかみのあたりに電極を当てて、電気を流して全身に痙攣を起させるのがこの治療の目的です。ふつうに意識下でやったら、痛みがあるでしょうし、痙攣のせいで脊椎圧迫骨折を起したりといろいろな問題があります。かつては麻酔を掛けずに行なっていたため、実際にいろいろなトラブルがあったし、人権的にも問題視されたということもあったようです。
精神科病棟に専用の部屋とスタッフがいればいいんでしょうけど、現状として麻酔をかけるには手術室が一番都合がいいでしょう、ということでオペ室で電気ショック治療を行なっています。うちらは麻酔科ナースとしてお手伝いをしているという感じです。
強迫観念の制汗
◆ オペナース的 電気ケイレン療法ECTのポイント
ECT介助のポイントとしては、筋弛緩のタイミングとタニケットを使うあたりでしょうか。うちではマスク換気で酸素化のあと、ラボナールで意識を消失させます。麻酔科医がマスク換気を続けている間に精神科の医師が器材の準備。タニケットを足に巻きスイッチを入れて末梢の血流を途絶させた後、麻酔科医は筋弛緩剤(サクシン)を投与。充分に筋弛緩が効いたのを確認後、いよいよこめかみのあたりに電気ショックをかけます。するとそのショックによって痙攣が起きるのですが、体幹は筋弛緩が効いているので反応なし。痙攣するのはタニケットを巻いてある側の足だけです。
ここでようやく謎が解けたんじゃないでしょうか? なぜ電気痙攣療法にタニケットが必要なのか ―。
電気ショックによってちゃんと痙攣が起きたか確認しなくちゃいけないけど、全身が痙攣すると危ない。だからターニケットで血流を止めて腕なり足なりだけが痙攣するようにしているわけですね。
ブラックジャックとt-痛みの歌
こうして全身麻酔+筋弛緩をうまく使うことで安全に電気ショック療法が行えるようになっているのです。電気けいれん療法というとイメージ的にどうしてもあまりいい感じはしませんが、いまではECTと呼び、使う器材もかつてのような木箱に入っている手作りチックな器械ではなく、心電図や脳波などが自動モニターさせる専用のECT装置が開発されています。実際に目の当たりにすると、ちゃんとした近代的な治療なんだということが納得できるはず。
◆ ECTの治療効果と最近の動向
このECT、確かに効果があります。ECTの適応になった患者さんは毎週オペ室にきて1クール5回だったかな。電気痙攣療法を続けるのですが、最初に担当したときに比べて、後半クールになると素人目にもよくなっていることがわかります。最初は挨拶にも反応がなく完全に無表情だった人が、自分から「よろしくお願いします」なんて挨拶してくれるようになるんですよ!麻酔併用によって安全に電気ショック療法が行えるようになった今、副作用としてあるのは健忘くらいだそうです。前後の記憶が抜けることがあるという程度のモノらしいですが。かつての電気ショック治療とECTは別物と考えた方がいいのかもしれません。
最近、新聞などでも電気けいれん療法が取り上げられ� ��り(『脳に「電流」うつ改善』:読売新聞)と、なんとなくブームになっているのを感じます。うちの病院では以前から行なっていましたが、最近はにわかに件数が増えてきたのも事実です。
数年前にパルス型治療器が日本でも認可になったのと、治療方法がきちんとマニュアル化されたという点が大きく関係しているみたいです。日本は精神医療が遅れているなんていいますが、これから大きく変わっていくところなんでしょうね。
以上、今日は手術室看護師の知られざる仕事内容のひとつ、精神科の修正型電気痙攣療法について取り上げてみました。
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